CLARITY法案の神話と事実
米国の暗号資産市場構造法案「CLARITY法」が、下院を294対134(民主党から78名が賛成)で 通過し、いま上院での扱いが焦点になっている。この法案には成立前から「規制が甘い」 「業界寄りだ」といった批判がつきまとってきたが、推進側の業界団体 Crypto Council for Innovation(CCI)は、 そうした批判を「神話」として一つずつ取り上げ、条文に沿って反論する ファクトシートを公開している。
https://x.com/crypto_council/status/2081786922406420642?s=12
以下はこのファクトシートの抄訳である。不正金融対策、 投資家・顧客保護、DeFi と自己保管の扱い、ステーブルコインによる預金流出という、 この法案をめぐる4つの争点を軸に構成されている。
不正金融と国家安全保障
神話①: 不正金融・国家安全保障への対応が甘い。
事実: これまでで最も包括的なデジタル資産の法執行法案。既存の AML/CFT 要件を拡張する。
- 取引所には2013年から、登録・本人確認・不審な取引の届出が義務づけられている
- CLARITY法はこれに、暗号資産ATM の詐欺対策、DeFi のセキュリティ基準づくり、危険な資金移転を止める権限、FinCEN への1.5億ドルを積み増す
神話②: 暗号資産はテロリスト・麻薬密売・ランサムウェア・ならず者国家に使われている。
事実: 悪意ある行為者はあらゆる金融システムを悪用する。現金も、ハワラ(銀行を介さない古くからの送金網)も、伝統的な銀行も、暗号資産よりはるかに大きな規模で1。とはいえ不正はどんな量でも多すぎるのであり、だからこそこの法律が要る。
- ブロックチェーンの取引は誰でも見られて追跡でき、現金より足がつきやすい。実際、分析会社を使った資金の追跡と回収が行われている
- CLARITY法はデジタル資産を現金と同じ報告の枠組みに入れ、国家ぐるみの攻撃に対抗する専門機関も設ける
投資家保護と顧客保護
神話③: デジタル資産証券の投資家保護を弱め、証券法から逸脱する。
事実: 証券は証券のまま。詐欺は違法のまま。SEC は完全な法執行権限を保持する。証券法を損なうのではなく、SEC の所管を明確にして手段を強化するもの2。
- SEC の監督権限をはっきりさせ、情報開示を条件に、合法的に資金を集める道筋をつくる
- インサイダー取引の禁止も及ぶようにし、発行体の関係者がトークンを売るときは保有期間と数量に制限をかける
- 抜け穴を塞ぐ規則をつくる権限も SEC に渡す
神話④: 業界インサイダーが書いた、業界のための法案だ。
事実: 超党派の長年の作業の産物であり、一般の米国民の利益になる。要するに連邦の監督を増やし、強化するものだ。
- 世論調査では70%が「米国はもう暗号資産の法制化を済ませているべきだった」と回答3
- 下院は294対134で可決し、民主党から78名が賛成に回った
神話⑤: 顧客保護が不十分だ。
事実: 「デジタル商品仲介業者法」と合わせて、この分野で最も包括的な顧客保護をもたらす。
- CFTC に現物市場の監督権限を与えて、規制の空白を埋める
- 取引所には、顧客の資産を自社の資産と分けて管理すること、一定の財務体力をもつこと、破産しても顧客の資産が守られるようにすることを義務づける
- 第10801条は、仕組みやリスク、詐欺の見分け方を説明した「わかりやすい教材」の提供も求めている
米国における責任あるイノベーション
神話⑥: DeFi に「フリーパス」を与える。
事実: DeFi における責任あるイノベーションの章がまるごと1つある。顧客資産を支配する顧客向け仲介業者に義務を集中させるという、長年の規制原則の適用だ。
- 名ばかりで実際には分散化されていないプロトコルを動かしている者は、仲介業者として登録し規制に従わなければならない
- 利用者が触るフロントエンドの運営者にも制裁遵守の義務がかかり、DeFi のセキュリティ基準も定められる
神話⑦: 自己保管条項と開発者保護は規制の抜け穴だ。
事実: 適法な自己保管と中立的なソフトウェア開発を保護するが、BSA・制裁法・AML/CFT の執行能力は一切損なわない。
- 自己保管が守られるのは適法な利用に限られ、当局の取り締まりを妨げるものではない
- 開発者の保護も、ノードの運営や取引の検証といった裏方の作業をしている「だけ」なら証券法の対象にしない、という限定的なもの。詐欺や相場操縦を摘発する権限は残る
- 不正な送金を意図する者は保護されない
神話⑧: 預金流出(デポジット・フライト)を招く。
事実: ステーブルコインの普及が預金流出を招くという証拠はない。加えて、この懸念に明示的に対処する文言が入っている。
- 超党派の条項が、ステーブルコインの残高に利息を払うことを直接・間接を問わず禁じている。預金利息と同じようなものだと宣伝することも制限される
- ただし、買い物などの利用に応じて配るポイント型の報酬は認められる
- 銀行の側も、デジタル資産やブロックチェーンを使った業務を行えるようになる
神話⑨: 米国民はすでに暗号資産を使えるのだから不要だ。
事実: 明確なルールがなければ、暗号資産の活動は保護のないまま国内で続くか、米国の規制が及ばないオフショアへ移るかのどちらかになる。市場が出ていけば、成長と税収を失う。
- 世界の時価総額は2.6兆ドル超。2025年には取引所の取引高の最大88%が米国外で発生し、開発者のうち米国にいるのは19%(この10年で51%減)
- EU・シンガポール・UAE はすでに制度を整え、資本と起業を集めている
- CLARITY法は、こうした活動を国内に呼び戻して米国の基準の下に置く
おわりに
読み終えて印象に残るのは、9つの反論がすべて同じ方向を向いていることだ。「この法案は 規制を緩めるものではない、むしろ SEC と CFTC の権限を強めるものだ」——FinCEN への 1.5億ドル、BSA への取り込み、開示義務。並んでいるのは、政府の監督が増えるという話 ばかりである。業界団体が、規制が増えることを売りにしている。批判に「規制はむしろ 強まる」と答えるしかない位置にいること自体が、この法案がいまどういう風向きの中に あるかを示している。
ただ、反論の力の入り方には差がある。不正金融と顧客保護の項が条文番号を挙げて具体的に 答えているのに対し、預金流出の項は歯切れが悪い。「証拠はない」と言った直後に利回り 禁止の条項を紹介し、さらに「取引ベースの報酬は普及に不可欠だ」と続く。証拠がないの なら禁止条項は要らないはずだし、不可欠だと言ってしまえば銀行側の懸念に答えたことに はならない。DeFi の項も同じで、「真に分散化されていない」プロトコルには義務がかかると 繰り返すが、では真に分散化されたプロトコルはどうなるのか——批判者が最も気にする点—— には触れないままだ。
この濃淡は、論点ごとの成熟度を映しているのかもしれない。具体的に答えられるのは、 議論が積み重なって着地点の見えている論点だろう。逆に歯切れの悪い箇所は、まだ決着が ついていない可能性がある。だとすれば、この文書は推進側の説明としてだけでなく、上院で 何が争われるのかを読むための手がかりにもなる。